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「咲くことのない花束」 荒れ果てた山の中の、 荒削りに開かれたこの地に残された 灰色の巨大な建物にある 風化したこの部屋。 窓からさす光は空中のホコリを通過し、 ドアと床の隙間を照らす。 レースのカーテンは手に触れればホコリに変わる。 今はこの建物のどの部屋も 人が住んでいた形跡さえも消え果たけれど、 この部屋だけは何かが住んでいた形跡がある。 それはこの部屋の、 変色した布張りのソファーの隣の、 花台の上に置かれた青色のガラスの花瓶に添えられている 今はドライフラワーのように時間の止まった 咲くことのない花束のせいであろう。 そのつぼみは確かに最近まで咲こうとしていた。 水の足されることのなくなった花瓶。 空気の流れをさえぎるゆがんだガラス窓。 ただ静寂だけが覆うセピア色の部屋に 美しい彩りを添えるために。 |